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第9回 優秀作品賞

 優秀作品賞 幸せを呼ぶ『お守り』

  市原 利行さん(高知県)

私たち夫婦は今、人間ドックや健診は、家族みんなの「幸せを呼ぶ『お守り』」だと思っています。この思いに至ったのは、三年前の冬に、妻の身に起きた「大きな出来事」がきっかけでした。当時、妻は六十四歳でした。

忘れもしない、一月六日の夕方。浴室に入った妻が突然、意識を失い、救急救命病院に搬送されました。救命医から告げられた病名は「脳出血」。その時私は、この病気が悪性新生物(ガン)、心疾患(心臓)に次ぐ死亡原因第三位の、恐ろしい病気だということを知りませんでした。

一時は、集中治療室で生死を彷徨いましたが、救命医の先生の迅速、かつ適切な処置のおかげで、一命を取り留めました。その後にリハビリ病院に転院し、必死でリハビリに励みましたが、半身麻痺、失語症、高次脳機能障害の重い後遺症が残りました。これまでの平穏で幸せな生活が一変し、先の見えない不安な日々を過ごすことになりました。

妻の入院中、毎日見舞いに行きましたが、私ができることは限られていました。そのため、「まずは、脳出血のことを知ろう」と思い、パソコンで必死に探しました。そこで見つけた循環器病情報サービス(国立循環器病研究センター)の記事を、貪るように読みました。専門医は、

「脳出血の最大の原因は、ずばり高血圧」

と記し、続けて、

「問題は生活習慣病。だから、一番注意を払ってほしいのは、病気をしたことがなく病院にかかっていない方も、一年に一回ぐらいは健康診断を受け、自分の体の状態、生活習慣の乱れをよく知っておくことが重要」

と指摘。言葉が出ませんでした。

妻は、勤務時に毎年受けていた人間ドックすべての項目が、「A(異常無し)」評価でしたので、

「どう、私の体は完璧よ」

と、冗談交じりに言うほど、健康に自信を持っていました。そのことが過信となり、退職後八年もの間、市役所から毎年届く「特定健診」を受けず、家庭での血圧も計っていませんでした。今思えば、このことが、大病の兆候を見逃した最大の要因ではないかと、大きな後悔をしています。

さらに、私たちを不安に陥れたのは、「再発」への恐れでした。

情報サービスの専門医は、「脳出血を起こした方は、そうでない方に比べて、再度脳出血を起こす可能性が高くなる」と指摘。この記事を読み、「再発すれば、今度こそ命はない」との思いが、私たちの健康意識を根本から変えました。

まず、「かかりつけ医」を決め、降圧薬の服用と、毎朝、家庭血圧を計りました。

加えて、かかりつけ病院の血液検査を一回、特定健診を一回、毎年受けることにしました。血液検査では、HbA1cが入っていなかったことと、尿検査や便の潜血検査も受診出来なかったため、二つの検査、健診で、体の状態を念入りにチェックしました。

その結果、妻は再発も無く、全ての項目がA評価であることも確認でき、同時に、私も血液検査と特定健診を受け、病気への備えと生活習慣を改めるきっかけにしています。

妻の出来事は、息子家族の健康意識も大きく変えるきっかけになりました。息子は、入社以来三十代半ばまで営業担当として、毎日夜十時頃の帰宅で夕食も遅くなり、食事後すぐに床につく日々が続いたため、徐々にBMI値も、血圧も上昇気味になっていました。が、日々多忙な仕事を抱えていたため、人間ドックの結果に注意することも無かったようです。

しかし、駆けつけた病院で、半身麻痺で言葉も出ず、声掛けにもほとんど反応しない母の姿にショックを受け、万が一、一家の大黒柱が倒れるようなことがあれば、家族全員が路頭に迷い、平穏で幸せな暮らしが一変することを、身をもって知ったようです。

その後は、産業医の説明に真剣に耳を傾け、奥さんも毎年婦人科検診を受けるようになりました。さらに、子どもたちの健康にも気を配り、塩分を控えて野菜を多くとり入れた料理を作るなど、今では、家族全員に「健康第一」の意識が芽生えています。

人の体は「無口」だと思います。悲鳴をあげるぐらい悪化しないと、声をあげてくれません。だからこそ、自覚症状が現れる前に教えてくれる人間ドックや健診は、脳血管疾患に限らずがんや心臓病などの重大な病気の早期発見の上でも、非常に大切なものだと改めて考えるようになりました。

私たちは今、一月六日に近くの神社に毎年お参りします。わが家に起こった「大きな出来事」をいつまでも忘れないことと、一年間健康で過ごせたことに対して、感謝の意を伝えるためです。

同時に、人間ドックと健診が、私たちと息子家族みんなの「幸せを呼ぶ『お守り』」であることを伝え、今年も必ず受けることを神様に誓っています。