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第8回 ソニー生命賞

ソニー生命賞 『1月の寒い日』

  益田 千佳さん(福岡県)

8年前も、こんな寒い1月の日だった。

友達の年賀状を見返していた午後。

「昨年、がんの手術をしました。
 忙しいと思うけど、検査も忘れずにね」

その年賀状のある同じテーブルの上には、人間ドックの問診票があった。
やっぱり、今年は受けてみよう。初めてだけど。すこしこわいけど。

朝8時に受付に行き、清潔なロッカールームに案内された。
検査着だけでは少し寒いかなと思っていたら、座り心地のよいソファーの近くにふわふわのブランケットが置いてあった。ひざにかけると温かくなった。
色とりどりの雑誌を眺めていたら、名前を呼ばれた。
わたしの初めての人間ドックの始まりだった。
ほどよくエアコンが効いた静かな部屋で、検査は順調に進んでいった。
緊張していた乳腺や婦人科の検査も、技士さんや先生が優しくて、ほっとした。
胃透視の検査ですべての項目が終わり、別室に移ると美味しそうなお昼の御膳が運ばれてきた。
リラックスしてお料理をいただきながら、乳腺エコーのことを思い出していた。
とても丁寧に見てくれた気がしたけれど、初めてだったので、いつもこうなのかな、と思った。

外に出ると、曇っていた朝とは違って、明るい冬の陽射しが降り注いでいた。
すっきりした気持ちで私は歩き出した。

それからひと月ほどして、ドックの結果が来た。
今思えばなんとなく予感がしていたのだが、乳腺は要精密検査になっていた。
主人ともども長くお世話になり信頼している内科のかかりつけ医にお尋ねしてみると、その人間ドック機関の関連の病院に、先生のお知り合いの乳腺専門医がいらっしゃるとのことで紹介状を書いてくださることになった。

その後精密検査を受けると、わたしの左胸にがんが見つかった。
まだ初期ではあったが、手術もすることになった。
奥のほうにあったらしいこの腫瘍を、わたしは自分では最後まで触って確認することはできなかったが、先生によれば

「ドックの際の技士さんがよく見つけてくれたね」

とのことだった。
あのとき丁寧にみてくれていたと感じたのは、気のせいではなかったのだ。
丹念にみて写真をとり、先生に渡してくださったのだろう。
いろんな過程をへて病気はわかるものなんだな、とありがたく感じる気持ちがわいてきた。

新しくわたしの主治医となってくださったこの先生はいつも明るく、いろいろなお話を診察のときもお互いにしたものだ。
おかげで不安なく過ごすことができた。
その後の入院や通院を通して、多くの先生方、看護師、技士、そして病院スタッフのおかげで、わたしは何年かの治療を常に前向きに受けることができた。
自分の職場の仲間の協力や励ましもあり、仕事にも復帰して、いまも元気に過ごしている。

もしあのとき人間ドックを受けていなかったら、もし1年延ばしていたら、どうなっていたのかな、とときどき思う。

あのドックのときに優しかった婦人科の先生には、乳がんの治療との関係もあり、並行して診ていただき、その後もつづけてお世話になることになった。
そのほかいろんな出会いもあった。

その後ほかの症状が出たときも、ドック機関の関連の病院でわたしのデータはすべて共有されており、それぞれの専門の先生に適切に対処してもらうことができている。
これも、当初人間ドックを受けたおかげだと思う。

毎年受けていても、やっぱり検査を受けるのは面倒な気持ちになるし、日常はいつでも忙しいものなので、ついつい先延ばししたくなる。でもこの時間になにかがしずかに起こっているかもしれないし、なにもなければ、また1年間気持ちよくすごすことができるのだ。

来月は、乳腺の先生とまたお会いする。
先生とは相変わらず毎回、笑い合ってばかりだ。
でも、こうやって笑い合えるふつうの日々がたいせつだし幸せだといまは思う。

あの年明けに知らせをくれた同級生にもほんとうに感謝だ。
人間ドックに行こうと思っていた私の背中をさいごに押してくれることにもなった。

あのときドックに行ってよかった。と思いながら、わたしは冬の空を見上げる。
もう1月も終わりに近づいた。
ことしもまた、新たな1年を元気に過ごせますように、ひとりでも多くのひとが、清々しい日々を過ごせますように、と願いながら。