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第3回 優秀作品賞

 優秀作品賞 『主婦こそ受けたい人間ドック』

米澤 泰子さん(福岡県)

  勤め人なら会社で、子供達は学校で定期的に健康診断がある。高齢者は持病などで病院に通うことで健診の役割を果たす。その谷間のブラックボックスにすっぽりと入ってしまうのが家庭の主婦だ。家事や子育てで忙しい毎日の中で、家族の健康には気を使っても自分自身の健康は二の次、三の次になりがちだ。私自身もかつてはそうだった。

 四十歳になった時、夫の会社から〝主婦健診のお知らせ〟の手紙が届いた。費用の一部を負担すれば残りは会社の負担で人間ドックが受けられるという。だが特に体に変調もなく、一部負担といって主婦にとっては決して安くない金額に、まだ病気になる年じゃないからと、そのままにして数年がすぎた。

 高校時代の同級生が二人、乳がんで亡くなったと聞いたのは、四十も半ばにさしかかるころだった。二人とも異変を感じて病院に行ったときには手遅れで、手術や治療をしたが数年のうちに相次いで亡くなったと聞いてショックを受けた。そのうちの一人は最初の子を病気で亡くし、ようやく生まれた次の子はまだ三歳だったという。わが家の子どもたちは当時高校生と中学生だったが、「病気になってからでは遅い、今年は必ず健診を受けるように」と夫からきつく言われてしぶしぶ受けた生まれてはじめての人間ドックで、乳房の異常を指摘された。

 ”乳房に異常が見受けられます。専門医で精密検査を受けてください
 『健診の結果のお知らせ』の紙を持つ手が震えた。乳がんで亡くなった同級生の顔が浮かんだ。「まだ悪性のものと決まったわけじゃない。健診では病気の一歩前の段階の人も要注意として、精密検査に回すことが多いそうだ。心配して精密検査を受けたら何ともなかったって人も、会社にはいっぱいいる」…だが、努めて明るい調子で言ってくれる夫の顔は青ざめている。高校生の息子は黙りこみ、反抗期の娘は「お母さん、死んだらダメ!」とぽろぽろ涙をこぼした。中学に上がった頃から、何かにつけて口答えして私を困らせることの多かった娘の涙は私にはちょっぴり意外でもあり、嬉しいものでもあった。みんなこれほど私の体のことを心配してくれていると思うと、病気になるの仕方がないけれど、それでもできるだけ早めに病気を見つけて軽いうちに治療することが、妻として親としての義務だとしみじみ感じた。家族の誰が病気になっても困るけど、家庭を守る主婦の健康は、そのまま家族みんなの安心あと幸せにつながることを痛感した。

 次の週からの精密検査には夫が会社を休んでくれた乳腺専門医のいる病院で、CTや乳房に直接針を刺しての細胞検査などを受けた。しばらくして「乳腺症の一種で、のう胞といって乳腺の中に液などが溜まっているものでしょう。これからも半年に一回は経過観察を」と言われた時には、心の底からホッとした。 

 このことがあって、私はそれから毎年人間ドックを欠かさず受けるようになった。会社指定の人間ドックの期間が夏から秋の間なので、夏生まれの娘の誕生日の七月十八日に毎年受けることに決めた。あの時の娘の涙や、心から心配してくれた家族への感謝の気持ちを込めてこの日にしたのである。多少の出費も自分自身や家族の安心料と思えば、決して高くはないと思えるようになった。

 それから十年以上、七月十八日が近付くと今でもやはりドキドキする。それでも(毎年人間ドックを受けているのだから、たとえ病気がみつかっても早期治療ができるはずだ)と自分に言い聞かせてその日を迎える。

 三年前にはこの人間ドックで卵巣にのう胞が見つかり、摘出手術を受けた。早期だったので腹腔境で手術ができ、痛みもほとんどなく数日で退院することができた。もう少し遅れれば、大きくなった卵巣がねじられて救急車で運ばれて緊急手術になったかもしれないと聞いて、改めて早期発見、早期治療の重要さを実感した。

 アラ還に近づいたこのごろは、年のせいか血液検査などでも要注意の項目も増えてきている。数値にこだわりすぎるのはよくないけれど、それでもできるだけ運動をしたり、生活習慣の見直しをしたりして、『去年よりも悪くならない』ように心がけている。

 人は加齢と共に誰でも病気になることは避けられない。でも、年に一度の人間ドックで自分自身の体をきちんとチェックして、病気の早期発見や早期治療に努めたり、できるだけ病気にならないように日頃の生活を改めたりすることが、これからの高齢社会では大切だと思う。特に日ごろ健診を受ける機会のない主婦にとって、年に一度の人間ドックは、自分自身のため、そして大切な家族のためでもある。『主婦こそ人間ドックを』私は勧めたい。