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第1回 ソニー生命賞

ソニー生命賞 『大切なことは』  

荒井 広子さん(茨城県)

 市の広報紙を見て、人間ドックと脳ドックについて助成金が受けられると知り、これはいい機会と、早速夫の名前で申し込みました。
 44歳、自営業で働き盛りの夫は、これまで、大きな怪我や病気もしたことが無く、風邪をひいても寝ていれば治る、仕事を休んでまで病院へ行きたくない、と口にする人でした。
 ですから、私が人間ドックを申し込んだ旨を伝えると案の定、

「こういうのは受けてもさ、大概、何もありませんでしたって、帰らされるパターン、多いよな。時間の無駄になる。」

と、大変不満そうなご様子。

 仕事を休みたくない、という夫の気持ちもわかりましたが、三人の子供もいますし、夫自身にも、自分の体について考えるきっかけにもなりますし、何も無ければそれでいいんですからと、説得の上、受ける事を承諾してもらいました。

 こうして、わりと気軽な気持ちで申し込んだ二つのドックでしたが、戻ってきた結果は、家族の誰も想像すらしていなかった「要検査」だったのです。
 更に詳しく検査を進めたところ、胃潰瘍も見付かりましたが、最も深刻だったのは、大腸内視鏡検査により発見された直腸ガン。
 しかもそのガンは、初期ではなく進行していると思われるため、手術が必要とのお話でした。私達夫婦は、告知のショックから立ち直る間もなく右往左往しながら、仕事の段取り、入院と手術の準備、子供達へ病気をどう伝えるかといったこと全てを、短期間の間に対応し、手術当日を迎えます。

 手術は、予定時間を大幅に越えたため心配しましたが、術後の説明で、手術の成功と、思ったより病巣が深かったため、予定より大きく切り取ったことについて、お話がありました。

 その後の組織検査により、夫の状態は「リンパ節転移あり ステージⅢb」と判明。
 退院後は、自宅治療をしながら、一年間の抗ガン剤治療を、休むことなく無事に続ける事が出来ました。

 一年後の検査でも、再発は認められず、仕事の再開も果たし、今現在に至ります。
 もちろん、まだまだ油断は出来ませんが、こうして日常生活を取り戻すことが叶ったのも、人間ドックを受けることによって、治療が可能な段階で、病気を見付けることが出来たからだと思います。

 四十代、五十代という年齢は、働き盛りでもあり、社会的にも様々な面で責任も重くなってきますから、具合が悪いわけでもないのに、仕事を休むことに抵抗がある、休みにくいと思う方も当然いらっしゃると思います。
 ですがこの年代は、ガンリスクが高まる時期でもあります。
 忙しい、時間がない、どちらも本当によくわかりますが、たった一日~二日で出来る検査を受けなかったために、これから先に続くであろう、何十年の人生を、失うことになるかもしれない可能性というのは、決して小さくないと思います。
 現に、夫がその危機に直面し、今もその小さくはない可能性と闘っています。
 夫の場合ですが、人間ドックを受けることを、一年でも二年でも、もっと早く実行していれば、五年生存率という厳しい壁と、向き合わずに済んだのかもしれません。

 今は、その壁を越えるべく、前進するのみ。
 毎朝、顔を合わせて「おはよう」と言えること。文句でも愚痴でも、声が聞けること。
 手を伸ばせば、お互いの体温が感じられるということ。
 この、あたり前でありささやかな日常が、病気によって失われる怖さを知った私達は、人間ドックを受ける大切さを、機会あるごとに、広く伝えて行きたいと思います。

 また、私達家族の中でも、人間ドックを受ける習慣というものを、代々引き継いでいきたいと思います。
 そして、今回、夫の病気のことで、多くの人と話をする機会がありました。そこでわかったことは、夫と同じように同じような理由から、人間ドックを敬遠される方が結構いらっしゃるということ。

 また別な理由では「知りたくない、結果を聞くのが怖い」「経済的にそこまで回らない」といったものでした。
 それぞれ、どの理由も理解できましたが、一時的なことや考え方で、この先に続く人生の安心を手離してしまうのは、非常にもったいないと思います。
 こういった皆さんへも、人間ドックというハードルが、より低く、より身近になるよう、検査方法や料金、病院選び等が、より分りやすく、より理解を得られる体制へと、日々進化してくださることを願ってやみません。
 すべての国民が、人間ドックをごく当たり前に、気軽に受けられる社会となりますよう。