第1回 優秀作品賞
優秀作品賞 『人間ドックをプレゼント』
木戸 小春さん(静岡県)
私の両親は50歳台になり、見た目も随分変わりました。私は、大の病院嫌いな父に育てられた一人娘ですが、医療系の大学で学んでいます。ある時、下宿先から久しぶりに実家に帰ると、大きくて頼もしい父の背中がなんだか小さく感じました。背中が少しずつですが曲がり、白髪も増えてきました。そんな両親の些細な変化は、私にとって無性に寂しかったです。両親は健康診断で異常はありません。ですが急に太り始めた父を見て、嫌な予感が胸をよぎりました。両親の変化を目にする度、医療従事者の卵である私は人間ドックを受けてほしいと思っていました。ですが、決して裕福ではない家庭で大学の高い授業料を払ってもらっている身です。保険外診療の人間ドックを気軽に勧めることはできませんでした。
そこで私は思い切って、20歳の節目に両親に人間ドックをプレゼントすることにしました。両親には今までたくさん苦労もかけました。これからは、自分の為の時間も大切にしてもらいたい。そのためには、何より健康な体が基本となると思ったからです。ですが、人間ドックは貧乏学生が簡単に払える金額ではありませんでした。なので、コンビニアルバイトで貯金をし、ようやく一年越しに人間ドックをプレゼントできる準備が整うといった運びとなりました。
ここまでは順調でしたが、病院嫌いな父が素直に人間ドックに行くはずはありません。なにせ虫歯も我慢できなくなるまで放置し、決して病院には行きたがりません。また、体脂肪など気にせずに大好物のから揚げを一週間食べ続ける、といった具合の父なのです。案の定、最初は聞く耳を持ってくれませんでした。何度、予防医学の大切さを力説したことでしょう。ならば私は最終手段に出ました。土日診療の病院を見つけ、買い物に付き合ってほしいと嘘をつき、人間ドックを予約しました。この方法で成功するかどうか不安もありました。ですが両親に本当の事を伝えると、意外と素直に納得してくれて私はホッと胸を撫で下ろしました。
当日はというと検査結果が気になり、私は病院のロビーをうろうろしていました。検査結果の心配と不安からか、待ち時間が長く感じました。検査の結果、両親に幸い大きな病気は見つかりませんでした。検査後に、父がボソっと言った「受けてよかった。これからは定期的に健康度合をチェックしようかな。」そんな言葉がとてもうれしかったのを今でも覚えています。自分の体に対する小さな気遣いも、私の父にとっては大きな一歩です。
母に至っては以前よりも健康や生活習慣について興味・関心を持つようになりました。今回の人間ドックで健康診断では行わない精密な検査と健康指導を受けることができました。そして、自分自身の健康や生活習慣を見直すきっかけを与えてもらったことが何よりありがたかったです。
今回は、早期発見を希望して両親に人間ドックをプレゼントしました。しかし、病気が見つからなかったという安心感、健康や生活習慣に対する意識の変化、そして共に過ごせる時間。早期発見以上に大切なものを得ることができた気がします。今度、すっかり健康オタクになった母の目を盗み、たまには父とから揚げパーティーで健康のお祝いでもしようと思っています。もちろん烏龍茶をお供に。
受けてよかった人間ドック ~人間ドック体験記~
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